隣の席の先輩から学んだ、指導とその余白

Diary

2021年の4月に部署異動があり、そのときの隣の席についた先輩がレクチャーをしてくれたのだけど、自分史上もっとも「教える」に長けていた先輩だった。
始めに指導を受けた頃から一通りのレクチャーが終えた頃までを自分なりに振り返る。

前提としてお互いがお互いの知識レベルを一定理解していたので、まったくゼロからの指導ではなかった。
一定以上のITレベルや常識レベルのビジネススキルなどは備えていたつもりなので、その部署内での機能としてコアとなる部分にフォーカスを置きつつ、自分以外の部署とどう連携していくのがベストかを説くような発言が主だった。

結局、何が優れていたかでいうと「やらせてみる」に一貫した内容だった。
山本五十六の言葉に「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ」という教えにおける言い伝えがあるが、(先輩本人は無自覚だと思うけど)これを地で体現してくれていたと思う。

とにかく「やってみな〜」が口癖だった。
付け加えると「kasumidyaya君なら大丈夫だよ」と、都度背中を押してくれた。これが当時、非常に心強かった。

何事もまずやり方を最低限を伝え、次にすぐ行動に移させる。これの繰り返しだった。
始めは本当にコアな上辺をなぞる程度の事しか伝えられなかったが、これが信頼から来るものだったのか、最低限のリソースで効率性重視のレクチャーだったのかはわからないが、実際に行動やアウトプットに駒を進めるにあたって「自分の考えを反映する余地」があったのが、納得感ややりがいとして大きかったと思う。

効率化だけを考えればオペレーションをガチガチに固めマニュアルに沿ったアウトプットを繰り返させるのが良いだろうし、そのやり方が可能な部署でもあったけど、先輩はそういう教え方ではなかった。悪く言えば放任的な指導ではあるが、自分の性格には合っていたと思う。

他にも、「期待通りの回答」をくれるという印象も強かった。
これは紐解くと、質問を投げかけられた際はただ回答するのではなく、質問の意図や背景を探り、「whyを知りたいのか」「howを知りたいのか」「手伝ってほしいのか」を見極め回答してくれていたのだと思う。

ひとえに疑問形で投げかけても、期待する回答は状況によって違う。
「◯◯ってできますか?」のように投げかけても、その時々でやり方を聞いているのか、実は手助けを求めているかなど、思惑が色々あったりする。
受け手の負担を考えると、質問者側がどう答えてほしいのか分かりやすく問いかけろ、と言われると閉口してしまうのだけど、疑問→解決まで一直線であるケースばかりではなく、何がわからないかわからない状況などではストレートに疑問を投げかけるこが出来ない場合もある。

そういった時、表情や口ぶりなどからいい塩梅で察してくれていたのだと思う。
もちろん聞き返されることもあったがそういった時も主導的に解決に導いてくれ、とても頼もしかった。

何より良かったのは、指導において一切「怒る」や「否定」という手段を避けてくれたことだった。
これが自分の中では何だかんだで一番、先輩を尊敬するポイントだなと思う。

「怒る」と一言でいっても様々な表現方法がある。
言葉通り激昂するような言い方はもちろん受け手としてしんどいが、「なんで?」のような疑問にやや怒りの感情を織り交ぜてくるケースなど直接的ではない叱責も同じく辛い。
この延長で、「駄目じゃん」の様な否定的な表現をつかった指導も、時に指導としてはもちろん正しいのだけど、やはり心にストレスがのしかかる。

先輩はこういった2つの表現を、自分の記憶の限りではほぼ一切使用せずに学ばせてくれていたことが、自分が知識を飲み込むスピードに貢献されていたのだと感じた。

要するに何をさせるにも、背中を押してまずはやらせてみて、出来たら少し極端に褒め、出来ずとも否定はせず正しい方向へと軌道修正してくれた。

とにかく指導における安心度、先輩としての信頼度、頼り相手としての期待度がどれも非常に高く、自分の中での「先輩」像の水準を高く上げてくれた存在だった。


つまるところ、適度にレールは敷きつつも、相手の方法や手段に本人の思考の「余白」をもたせた指導が上手だった。

そこに自己分析を加えるなら、これを経て自分は「褒めて伸びるタイプ」寄りなのだなという確信も持った......。

少しズレるが、彼女は笑顔が絶えない先輩で、自身が辛い状況でも周りに表情や雰囲気からはそうであることを漏らさないよう努める人であった。
(もちろん、本当に辛いことはややクローズドに上司や同僚に相談して解消に努めていた。個人的にはここにもプロフェッショナリズムを感じていた)

仕事では優れた一面を見せ、プライベートでも何にでも興味あるよう振る舞ってくれる。まさに先輩の鑑だなと本当に思う。

そんな先輩は先月末で退職してしまい非常に残念な思いではあるが、余白を持った指導の仕方は後輩にも伝播させて行きたいと思い、自分の中で少し棚卸しをしてみた。

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